専門家混合モデル(MoE) 詳説:Mixtral 8X7B、DBRX、Deepseek-V2 のアーキテクチャと応用

専門家混合モデル (MoE) のアーキテクチャとその作動原理を詳細に解説。Mixtral 8X7B、DBRX、Deepseek-v2といった注目のMoEモデルの応用と利点を探索。PythonでMoEモデルを実装し、論理推論、要約、エンティティ抽出などのタスクにおけるパフォーマンスを評価します。

専門家混合モデル(Mixture of Experts, 略してMoE)は、大規模言語モデル(LLMs)の分野で長らく注目されている概念です。これはモデルの効率性やスケーラビリティを飛躍的に向上させるだけでなく、複雑なタスクへの新しいアプローチを提供します。簡単に言えば、MoEモデルは1つの大規模モデルを複数の小規模モデルに分割し、それぞれが特定のタスクやデータタイプに特化します。これにより、タスクを処理する際に関連性のある「専門家」のみが活動し、モデル全体を動かす必要がなくなるため、計算リソースを大幅に節約できます。

この記事で学べること:

  • MoEモデルの基本アーキテクチャと動作原理の理解
  • Mixtral 8X7B、DBRX、Deepseek-v2といった注目の MoEモデルの仕組みと特徴
  • Google Colab上でPythonを使ってMoEモデルを実装する方法
  • MoEモデルの論理推論、要約、エンティティ抽出といったタスクにおけるパフォーマンスの評価
  • MoEモデルが自然言語処理やコード生成などの複雑な課題でどのような利点と課題を持つかの理解

1 専門家混合モデル (MoE) とは何か?

現在のディープラーニングモデルは主に人工ニューラルネットワークに基づいており、それぞれの層に多数の「ニューロン」が含まれています。各ニューロンは入力データを処理し、簡単な数学演算(例:活性化関数)を行って、その結果を次の層に渡します。さらに高度なモデル、例えば Transformer では、自己注意メカニズムを導入し、データ内の複雑なパターンを捉えることができます。

しかし、従来の密集モデルは全ての入力データを処理する際にネットワーク全体を計算に使用するため、計算コストが非常に高くなります。この問題を解決するため、Mixture of Experts(MoE)モデルではスパースアーキテクチャを採用しており、現在のタスクに関連するネットワークの一部、つまり「専門家」のみを活性化させます。これにより、特に自然言語処理のような複雑なタスクの処理において、計算資源を大幅に削減できます。

例えば、チームプロジェクトでチームメンバーが複数のグループに分かれ、それぞれ異なるタスクに専念する状況をイメージすると、MoEモデルの動作方式が理解しやすくなります。MoEモデルは、複雑な問題を複数のサブタスクに分解し、各サブタスクを特化した「専門家」に担当させる構造です。

1.1 MoEモデルの主な利点:

  • 事前学習が高速:従来の密集モデルと比較して、学習プロセスが効率的。
  • 推論速度が向上:パラメータ数が同じでも、MoEモデルの推論はより高速。
  • VRAM需要が高い:全ての専門家がメモリに格納される必要があるため、グラフィックメモリの要求が高い。

MoE構造イメージ

MoEモデルの構成には、主に2つの重要なコンポーネントがあります:**専門家(Experts)ルーター(Router)**です。専門家は特定のタスクに特化した小規模なニューラルネットワークであり、ルーターは入力データを基に関連する専門家を選択的に活性化します。この選択的活性化により、タスクに必要な部分だけが計算に使用され、効率が向上します。

2 代表的なMoEモデル

近年、MoEモデルはAI研究の中で注目を集めております。これは、高いパフォーマンスを維持しながら、大規模言語モデルを効率的にスケールさせることができるからです。その中でも、例えば Mixtral 8x7B は、スパースな専門家混合アーキテクチャを採用しており、入力ごとに専門家の一部だけを活性化させることで、従来の完全密集型モデルに匹敵する性能を発揮しながらも効率を大幅に向上させました。

以下、注目すべきMoEモデルについての詳細を見ていき、それらをGoogle Colabを利用したPythonコードで実装する方法についても学びます。

2.1 Mixtral 8X7B

Mixtral 8X7B は、decoder-only 型の Transformer に基づいたアーキテクチャです。モデルの入力としてはトークンのシーケンスが与えられ、これらのトークンはベクトルに埋め込まれ、次にデコーダ層で処理されます。このプロセスにより、各位置でどの単語が占めるかの確率が生成され、テキスト生成や予測が可能となります。

MoE Decoder

デコーダ層は、以下の2つの主要部分で構成されています:

  1. 注意機構(Attention Mechanism):コンテクスト情報を統合します。
  2. スパース専門家混合 (SMOE) 部分:個々の単語ベクトルを個別に処理します。MLP層(多層パーセプトロン層)は計算資源を大きく消費する部分です。SMOEでは、各入力に対して最も関連性の高い専門家の出力の加重和が活性化されます。この仕組みにより、計算コストの抑制と複雑なパターンの学習を両立しています。

モデルの主な特徴:

  • 専門家の総数:8
  • 活性化する専門家の数:2
  • デコーダ層数:32
  • 語彙サイズ:32000
  • 埋め込みサイズ:4096
  • 各専門家のパラメータ数:56 億(全体に占める一部。残りは共通成分。)
  • 活性化パラメータ総数:128 億
  • コンテクスト長:32k トークン

Mixtral 8x7B は、テキスト生成、翻訳、感情分析、教育、顧客サービスの自動化などさまざまな分野で優れた性能を発揮します。

2.2 DBRX

DBRX は Databricks が開発した、Transformer に基づく decoder-only 型の大規模言語モデル(LLM)で、次のトークンの予測(Next-Token Prediction)を用いて訓練されました。本モデルは細粒度の専門家混合 (MoE) アーキテクチャを採用しており、総パラメータは 1320 億にのぼりますが、各入力においては 360 億のパラメータのみが活性化されます。このモデルは 12 兆トークンに及ぶテキストとコードデータを用いて事前学習が行われています。他のオープンソースMoEモデル(例えば Mixtral や Grok-1)と比較して、DBRXはより細かい専門家の設計を特徴とし、小型の専門家を多数使用しています。また、専門家数を増やしつつも、必要に応じて活性化される専門家の数を抑えた設計となっています。

2.2.1 アーキテクチャの特徴

  • 細粒度の専門家 通常、標準的なFFNレイヤーから専門家混合 (MoE) レイヤーに移行する際には、FFNを複数回コピーして複数の専門家を作成します。しかし、細粒度専門家の場合、より多くの専門家を生成しながらも、パラメータ数を増やさない仕組みが必要です。そのため、単一のFFNを複数のセグメントに分割し、各セグメントを個別の専門家として扱います。DBRXでは16個の専門家のうち4個の専門家が活性化される構造を採用しています。

  • 革新技術の採用 本モデルでは、さらなる効率化のために以下の技術が採用されています:

    • 回転ポジショナルエンコーディング (RoPE)
    • ゲーティッド線形単位 (GLU)
    • グループ化クエリ注意 (GQA)

2.2.2 モデルの主な特徴:

  • 専門家の総数:16
  • 各層で活性化する専門家の数:4
  • デコーダ層数:24
  • 活性化パラメータ総数:360 億
  • 総パラメータ数:1320 億
  • コンテクスト長:32k トークン

DBRXモデルは、コード生成、高度な言語理解、数学的推論、プログラミングタスクに関する使用例で優れた性能を発揮します。特に、高精度と効率性が求められる場合、例えばコードスニペットの生成、数学問題の解決、複雑な指示への詳細な解答などでその力を発揮します。

2.3 Deepseek-v2

Deepseek-v2 のMoEアーキテクチャでは、以下の2つの重要なアイデアが活用されています:

  1. 細粒度の専門家
    専門家をより細かい粒度に分割することで、専門家が習得する知識をさらに特化させ、より正確な結果を提供できるようにしています。

  2. 共有専門家
    特定の専門家を「共有専門家」として指定し、必ず活性化されるよう設計。これにより、様々なコンテクストにおいて汎用的かつ価値の高い知識を収集・統合します。

DeepSeekMoE

2.3.1 モデルの主な特徴:

  • 総パラメータ数:2360 億
  • 活性化パラメータ総数:210 億
  • 各層での専門家数:160(その中から2つを選択)
  • 各層での共有専門家数:2
  • 各層で活性化する専門家数:8
  • デコーダ層数:60
  • コンテクスト長:128k トークン

このモデルは8.1兆トークンの膨大なデータセットで事前学習が行われ、特に対話に優れた性能を発揮するため、チャットボットや仮想アシスタントとしての用途に最適です。また、文章生成や翻訳、要約といった高品質な文章処理に適しており、コード生成にも効率的に利用可能です。

3 PythonでMoEモデルを実装する方法

MoEモデルは、異なる専門家ネットワークを動的に選択してタスクを処理する高度な機械学習モデルです。以下では、Pythonを使用してMoEモデルをどのように実装するかを説明します。

3.1 ステップ1:必要なPythonライブラリのインストール

まず、必要なライブラリをインストールします:

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!sudo apt update
!sudo apt install -y pciutils
!pip install langchain-ollama
!curl -fsSL https://ollama.com/install.sh | sh
!pip install ollama==0.4.2

3.2 ステップ2:スレッドの有効化

次に、threadingを用いてOllamaサービスを実行します:

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import threading
import subprocess
import time

def run_ollama_serve():
  subprocess.Popen(["ollama", "serve"])

thread = threading.Thread(target=run_ollama_serve)
thread.start()
time.sleep(5)

3.3 ステップ3:Ollamaモデルの取得

例えばDBRXモデルをOllamaから取得:

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!ollama pull dbrx

3.4 ステップ4:モデルを用いたクエリ

モデルをテストするため、以下のようにクエリを投げます:

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from langchain_core.prompts import ChatPromptTemplate
from langchain_ollama.llms import OllamaLLM
from IPython.display import Markdown

template = """Question: {question}

Answer: Let's think step by step."""

prompt = ChatPromptTemplate.from_template(template)

model = OllamaLLM(model="dbrx")

chain = prompt | model

# 入力データを準備
input_data = {
    "question": '以下の内容を1文に要約してください:"ボブは男の子です。彼は犬を飼っています。ボブと彼の犬は散歩に出かけました。公園に着いたとき、ボブは棒を投げ、犬はそれを拾ってきました。犬はリスを追い、ボブはそれを追いかけました。ボブは犬を見つけ、一緒に家へ帰りました。"'
}

# チェーンを呼び出し、応答を表示
response = chain.invoke(input_data)
display(Markdown(response))

このコードにより、モデルの性能をテストし、その結果を見ることができます。

4 Mixtral 8x7B モデルの性能評価

異なるMoEモデルの出力を比較する際、例えば論理推論、要約、エンティティ抽出といったタスクの実績を見ることで、パフォーマンスの違いを分析できます。

以下、具体例をいくつか検証していきます。

論理推論問題:

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13個の単語を挙げてください。各単語は9文字で構成されています。

出力例:

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以下の13個の9文字の単語を示します:
1. Agriculture
2. Beautiful
3. Chocolate
4. Dangerous
5. Encyclopedia
...

上記のような問題では、一部の単語が条件を満たさない場合があります。ただし、一連の正確性を検討することができます。

要約問題

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次の内容を1文にまとめてください:「ボブは男の子です。彼は犬を飼っています。ボブと彼の犬は散歩に出かけました。ボブと彼の犬は公園に着きました。公園では、ボブが棒を投げ、犬がそれを拾ってきました。犬がリスを追い、ボブがそれを追いかけました。ボブは犬を見つけて、一緒に家に帰りました。」

出力:

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少年ボブは愛犬と活発な散歩を楽しみ、公園では棒拾いやリス追いを一緒に遊び、その後一緒に家に帰りました。

上記の出力から判断すると、要約は非常に適切にまとめられています。

エンティティ抽出

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次のテキストから、すべての数値とそれに対応する単位を抽出してください:「マラソンの長さは42キロメートルで、30,000人以上が参加しました。」

出力:

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1. 与えられたテキストには、2つの数値と対応する単位があります:
   - 42(マラソンの長さ。文中では単位が明示されていませんが、後述からキロメートルと推測できます)
   - 30,000(参加人数)
2. 文中で後にマラソンの長さの単位が示されています:「キロメートル」。特に別の単位が指定されていないため、この数値もキロメートルと仮定します。
3. したがって、最終的な解答は以下の通りです:
   - 42(キロメートル、マラソンの長さ)
   - 30,000(参加人数)

上記の出力から判断すると、すべての数値と単位が正確に抽出されています。

数学的推論問題

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2個のりんごを持っています。その後、さらに2個買いました。その2個のりんごを使ってパイを作ります。パイを半分食べた後、残りのりんごは何個ですか?

出力:

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1. 最初に2個のりんごを持っています。
2. さらに2個買ったので、合計で4個のりんごを持っています(2 + 2 = 4)。
3. パイを作るために2個のりんごを使用しました。その結果、残りは2個です(4 - 2 = 2)。
4. パイを半分食べましたが、パイに含まれるりんごの数は不明のため、この情報だけでは残ったりんごの正確な数を判断できません。

モデルの出力は不正確です。正しい答えは2です。理由は、合計4個のりんごのうち、2個がパイ作りに使用され、残り2個のりんごはそのまま手元に残っているためです。

5 まとめ

MoEモデルは、各タスクに関連する専門家のみを活性化することで、効率的な深層学習方法を提供します。この選択的な活性化により、従来の密集型モデルと比較して計算資源を削減しつつ、複雑な操作を実行することが可能です。しかし、MoEモデルにはすべての専門家をメモリ内に格納するための大量のVRAMが必要であり、トレードオフが伴います。

Mixtral 8X7Bアーキテクチャはその典型例であり、スパースな専門家混合(SMoE)メカニズムを活用して、専門家の一部を活性化し効率的なテキスト処理を実現し、計算コストを大幅に削減しました。このモデルは128億の活性化パラメータと32kトークンのコンテクスト長を持ち、テキスト生成から顧客サービスの自動化に至る多くの応用において優れた性能を発揮しています。Databricks社のDBRXモデルは、革新的な細粒度MoEアーキテクチャにより、入力ごとに360億パラメータのみを活性化しつつ、合計1320億パラメータを効率的に利用します。同様に、DeepSeek-v2は細粒度と共有専門家を組み合わせた強力なアーキテクチャを採用しており、2360億パラメータと128,000トークンのコンテクスト長を持つことで、チャットボット、コンテンツ作成、コード生成といった多様な応用に理想的な選択肢となっています。

5.1 重要なポイント

  • MoEモデルは、特定のタスクに関連する専門家のみを活性化することで深層学習の効率性を高め、従来の密集型モデルと比べて計算資源の使用を削減します。
  • MoEモデルは計算効率を提供する一方で、すべての専門家を保存するために膨大なVRAMを必要とし、計算能力とメモリ需要の間に課題があります。
  • Mixtral 8X7Bはスパース専門家混合(SMoE)メカニズムを採用し、専門家の128億活性化パラメータを一部活性化させることで効率的なテキスト処理を実現します。このモデルは32,000トークンのコンテクスト長をサポートし、テキスト生成や顧客サービス自動化を含む幅広い応用に最適です。
  • DatabricksのDBRXモデルは細粒度専門家混合アーキテクチャを採用し、各入力で360億パラメータのみを活性化する効率的な方式で、1320億パラメータを活かして複雑な言語タスクに対応します。
  • DeepSeek-v2は、細粒度専門家と共有専門家戦略を組み合わせた強力なアーキテクチャを採用し、2360億パラメータと128,000トークンのコンテクスト長を備え、多面的な応用において成果を挙げています。

6 よくある質問

Q1. 専門家混合モデル (MoE) とは何ですか?

A. MoEモデルはスパースアーキテクチャを使用し、特定のタスクに関連する専門家のみを活性化して計算資源の使用を削減する、効率的なディープラーニングモデルです。

Q2. MoEモデルのメリットとデメリットは何ですか?

A. MoEモデルは計算効率を向上させる一方、すべての専門家をメモリに格納するために大量のVRAMを必要とするため、計算能力とメモリ需要のバランスを取る必要があります。

Q3. Mixtral 8X7Bモデルの活性化パラメータ数はいくつですか?

A. Mixtral 8X7Bは128億(2×56億)の活性化パラメータを持ち、総数448億(8×56億)の一部を使用します。このことにより、複雑なタスクを効率的に処理し、より高速な推論を可能にしています。

Q4. DBRXモデルと他のMoEモデル(例: MixtralやGrok-1)の違いは何ですか?

A. DBRXは細粒度の専門家混合方式を採用しており、各層に16個の専門家を含み、そのうち4個を活性化します。一方、他のMoEモデル(例: MixtralやGrok-1)は各層に8個の専門家を持ち、そのうち2個を活性化します。

Q5. DeepSeek-v2は他のMoEモデルとどう異なりますか?

A. DeepSeek-v2は細粒度専門家と共有専門家を組み合わせ、2360億パラメータと128,000トークンのコンテクスト長を備えています。その結果、チャットボット、コンテンツ作成、コード生成のような多様な用途に応用可能なモデルとなっています。

7 推奨文献

  1. Mixtral of experts | Mistral AI | Frontier AI in your hands
  2. DeepSeekMoE: MoE with Segmented and Shared Experts
  3. Mixtral of Experts
  4. DBRX: A Large-Scale Decoder-Only Language Model with Fine-Grained Mixture of Experts
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